ソウル・パワー

監督:ジェフリー・レヴィ=ヒント
出演:ジェームス・ブラウン、ビル・ウィザース、B.B.キング他
2008年 アメリカ映画
2010/6/12よりシネセゾン渋谷他全国順次公開

“ルーツに戻ろう”
1974年ザイールで開催された世紀の一戦“モハメッド・アリvsジョージ・フォアマン”の
タイトルマッチと同時に行なわれた音楽祭をドキュメンタリー作品として発表した“ソウル・パワー”
ボクシングの試合を中心にアリを描いたドキュメンタリー“モハメッド・アリ〜かけがえのない日々”でも
一部その様子を見ることが出来るが、この作品ではアーチストの裏側がしっかりのぞける。
ジェームス・ブラウン、B.B.キング、ザ・スピナーズなど、当時の黒人アーチスト達、
しかもスーパースター級が次々に出てくる。
空港や飛行機の中、街での様子など、ステージの上でない彼らは、
すごく音楽と密接しているように感じられた。
ビール瓶や缶をたたき、リズムを作ると、誰かが歌いだす。
移動中ずっと音楽を奏でている。
黒人解放を求め、アフリカでコンサートを行なう彼らの姿は、実に明るい。
“ルーツに戻ろう”“帰郷するんだ”
まるで里帰りにワクワクしている若者のような顔が印象的である。
リズムあるところに、音楽がある。
ソウルミュージックの持つパワーが伝わってくる。
リズムに国境は無い。
打楽器は世界中にあり、歌は地球上のどこでも歌われる。
当時の黒人達の苦しさの反動がパワーとなり、今まで見たことのない一体感を作り出したのであろう。
音楽とスポーツの黒人スター達が創り出したパワーは、今見ても新鮮であり、魂を揺さぶる力を持っている。
今の時代、そんな後世に伝えられるパワーを持ったもの創り出せるだろうか?
この作品を見て“自由”を勝ち取るアーティストパワーに触れて欲しい。



THIS IS IT

監督:ケニー・オルテガ
出演:マイケル・ジャクソン他
2009年 アメリカ映画

“KING of POPS”
マイケル・ジャクソン生前最期の映像で綴られたドキュメンタリー作品“THIS IS IT”
久々のワールドツアーに向けたマイケル・ジャクソンのツアーリハーサルの様子を中心に
フィルミングしたドキュメンタリー映画である。
僕はこの映画を見て、マイケルは絶対に自殺では無いと確信した。
ここまで真剣にエンターテイメントを創り、情熱を注いでいるのだから。
音1つにこだわり、ダンサーのPick up、背景映像などすべてに参加し、アイデアを出していく。
スターだから、ちょっとチェックして…という感じでなく、自分達のものだから細部まですべてこだわっていく。
マイケル・ジャクソンという人間の優しさと弱さも伝わってくる。
バックミュージシャンがソロパートをとる時は、前に出て魅力を伝えるよううながす。
ミュージシャンやダンサー達にチャンスを与えるマイケルの優しさが、
リハーサルを通して色々なところで見えてくる。
スタッフにも細かく気を配る。
僕もヒットメーカーと呼ばれるアーチストのドキュメンタリーを撮っていたが、
やはり、長年愛されているアーチストは、スタッフにも気配りしているものだ。
常に最先端の技術を取り入れていると思っていたマイケルも、
10年近く前に導入されたイヤモニに慣れていないことにびっくりした。
子供の頃の父親からの言いつけで、やっていなかったそうだ。
でもトライしている。
スタッフやメンバーに謝りながら、トライしている姿は、マイケルの弱さが見えるし、
前に進もうとする努力が伝わってくる。
エンターテイメントとしてすべてのお客に喜んでもらうため、全力で立ち向かうスターの姿は
メンバー、スタッフ、関わるすべての人に伝わり、団結し、より上を目指し、
“良いものを創るのだ”という空気が伝わってくる。
“KING of POP”というニックネームは、マイケル・ジャクソンのこだわりと強さと優しさと、弱さが
作り出したものだと確信した。
すべてのエンターテイメントと創る人間が、この映画に映る彼の姿勢を見て
襟を正さなくてはならないだろう。



キャデラック・レコード
〜音楽でアメリカを変えた人々の物語〜

監督:ダーネル・マーティン
出演:エイドリアン・ブロディ、ジェフリー・ライト、ビヨンセ・ノウルズ他
2008年 アメリカ映画

“音楽の移り変わり”
この作品をどのジャンルに入れるか、ものすごく悩んだ。
マディ・ウォーターズやエタ・ジェイムスなどを扱ったチェス・レコードのヒストリーを描いた作品
“キャデラック・レコード〜音楽でアメリカを変えた人々の物語〜”
R&B、黒人の音楽の成功を描いた作品だが、
チャック・ベリーのようにロックンロールを生み出したアーティストもいたし、
ローリング・ストーンズなどにも影響を与えたり、HIPHOPにも関与しているので
何のジャンルにしてよいのか、本当にわからなかったが、
ストーリーの大半がチェスレコードの立ち上げの時期を描いているのでR&Bのジャンルにしてみた。
ポーランド移民でシカゴで黒人クラブ、レコードメーカーを立ち上げたチェスと、
南部の農民だったマディ・ウォーターズ。
人種差別の激しい時代、黒人と白人がタッグを組み、音楽業界に風穴を開けていった。
当時、贅沢の象徴であった高級車“キャデラック”
クーペデビルなんかを黒人が乗り回すなんて、考えられなかった。
音楽という形にならない“ソフト”が、レコードとして売れ、壁を壊していく。
心に訴えていくというビジネスだから、支持されると誰にも止められなくなったのだろう。
悲しい人生、人種の壁、ねたみ、恨み…。
崩していくために仲間となり、やっていったことが、世界中に広がっていく。
音楽が持つパワーは、すごいと改めて思わされた。
色々な時代に開拓者がいて、その人達が壁を崩してくれたから、
現在のエンターテイメントがあるんだと実感してしまった。
時代が創り出したものや音楽は、悩み戦った人間がいるから存在するのである。
当時、音楽を創造し、広げていった人々は、今の量産型音楽シーンについて、
どのように思っているのだろう?
人が創り出す音楽。
その力強さ、大切さを“キャデラック・レコード”は教えてくれる。



Ray

監督:テイラー・ハックフォード
出演:ジェイミー・フォックス、ケリー・ワシントン、クリフトン・パウエル他
2004年 アメリカ映画

“心の鎖”
ゴスペルとR&Bを融合した世界的に有名なシンガーでありピアニスト、
レイ・チャールズの人生を描いた作品“Ray”
こんな有名人はイメージが染み付いていて、誰が演じても再現フィルムみたいにしかならないのでは…という
不安があったが、そんな不安はオープニング2分くらいで吹き飛んでしまった。
ピアノをかき鳴らす手のアップ、そしてレイ・チャールズを演じるジェイミー・フォックスがかけているサングラスに映る鍵盤。
その頃には、もうストーリーに入る準備が出来てしまっている自分に気づく。
目の前での弟の死。黒人の中でも騙されながら、生きること自体が戦いの母。
そして7歳の時に失明。
差別のひどかった南部に育ったレイ・チャールズにとって、戦うことこそ生きることだった。
彼のピアノと音楽の才能は、耳にしか頼れない人生から生まれたものだった。
誰よりも音を聞き分け、様々なジャンルの音楽を真似、人から求められる音楽を言いなりになってやっていた頃、
ある女性が「レイ・チャールズの音楽」を聞きたいと言った。
レイは、その言葉に衝撃を受ける。
盲人が金を稼ぐ手段としてやっていた音楽から、自分の作品を求めるようになる。
教会に通い、祈ることを欠かさなかったレイの心の中にあるゴスペルのリズムと、
クラブ周りをして染み付いたR&Bの融合。
常に光の無い中、生きてきたレイにとっては、当然の融合だったのかもしれない。
後に、その言葉を発した女性がレイの妻になり、家庭を持つことになる。
しかし、彼はヘロインなどの薬物に頼り、ダメな人生を過ごしていた。
人生や名声、お金とは別に、失っていったものは“音楽”“家庭”“仲間”だった。
薬物治療を決意し、自分の心の闇と向き合い、“心の鎖”を取り除けた時、
レイは様々な幸せを手に入れることになる。
自分のことを悲劇の主人公だと思い、才能さえあれば何をやってもいいと思っている若者を知っている。
きっと彼は悲しい人間に違いない。
本当の自分と向き合い、“心の鎖”を解き、皆と共に前に進むことの方が幸せだということに
気づいて欲しいのだが、きっと彼にはわからないだろう。
この作品を見て、多くの人が心の解放のきっかけを掴んで欲しいと思う。



ブルース・ブラザース2000


監督:ジョン・ランディス
出演:ダン・エイクロイド、ジョン・グッドマン、ジョー・モートン 他
1998年 アメリカ映画

“豪華アーチストのセッションが見られる音楽娯楽映画の決定版”
ジェットコースターソウルR&Bムービー“ブルース・ブラザース”の第2弾。
ブルース・ブラザースと言えば、アメリカの人気番組サタデーナイトライブから誕生した
オリジナルフロントマン、ダン・エイクロイドとジョン・ベルーシのコンビというイメージしか無かった人も多いはず。
ジョン・ベルーシが他界してどのように第2弾を作るのだろうか?と疑問を持った。
正直に言うと、ジョン・ベルーシのいないブルース・ブラザースをわざわざ劇場で見る必要は無いと思い
劇場に行ってこの作品を見ていない。
ビデオで見て、後悔してしまった。
ブルース・ブラザースの見どころの1つにライブシーンが必ずある。
エリック・クラプトン、B・Bキングのセッションバンドのライブやミュージカルタッチのアレサ・フランクリンの歌、
またもや牧師として登場のジェームス・ブラウンとゴスペルチーム聖歌隊的ステージ。
その他にもアイザック・ヘイズ、ウィルソン・ピケット、エリカ・バドゥ、グローバー・ワシントンJr.、
スティーブ・ウィンウッドなど豪華アーチストが次々に出てくる。
もちろんブルース・ブラザースも最高のパフォーマンス。
劇場のサウンドと迫力の中で見たら、もっと気持ちよく見れたのに…。本当に後悔している。
ストーリーは相変わらずクールなのに、痛快で、やたらとカークラッシュシーンが派手で
警察からひたすら逃げると、前作と変わらない展開だが、
テクノやギャングスタラップにチャートが変わり始めた90年代の終わりのミュージックシーンに
メスを入れるような一言や、生楽器のダンスミュージックの素晴らしさを訴えている。
とにかく音楽的で、ソウル、R&Bを楽しみながら、笑って満喫できる娯楽映画の決定版だ。



ソウル・フード

監督:ジョージ・ティルマン Jr.
出演:ヴァネッサ・L・ウィリアムス、ヴィヴィカ・A・フォックス、ニア・ロング 他
1997年 アメリカ映画

“SOULの基本は家庭にある”
ストレートな音楽映画では無いが、SOULやR&Bが生活の中に密着している
黒人ライフが伝わってくる映画である。
ビッグ・ママと呼ばれるおばあさんとその一家の話。
おばあさんには3姉妹の娘がいて、次女には2人(途中1人産まれ、三女にも1人産まれる)の子供がいる。
その子供の中の1人、ブランドン・ハモンド演じるアマッドの目線で描かれた1つの家族の話である。
弁護士、主婦、美容室の経営兼美容師として働く3姉妹。
仕事も家庭も考え方も違う3人。
しかも、長女が好きだった人と次女は結婚するし、三女は前科のある男と結婚してしまったのだから
いつも喧嘩が絶えない。
そんな家族を結びつけていたことは、毎週日曜日にビッグ・ママが黒人家庭料理“ソウル・フード”をふるまい、
言いたいことを言って、ビッグ・ママや家族全員が聞いて、
心を通わせるようになるまで話す“サンデーディナー”だった。
結婚式でアース・ウィンド&ファイヤーの曲で皆が踊ったり、家でもソウルミュージックで踊るパーティがあったり、
SOUL Musicが生活に根付いている黒人ライフを描いている。
長女の夫が弁護士を辞め、ミュージシャンを目指したり、音楽的な描写が多いと思ったら
製作総指揮をベイビーフェイスがやっている。
選曲、ライブシーンやレコーディングシーンの見せ方…
さすがベイビーフェイスがやっているだけあって、R&B、ソウルテイストが前面に出てきている。
“ソウルミュージック、ソウルフード”
黒人が基本にしている「家庭」「家族」だけをテーマにして、結びつきの大切さを伝えてくれる作品です。



アンダーカバー・ブラザー


監督:マルコム・D・リー
出演:エディ・グリフィン、クリス・カッタン、デニース・リチャーズ 他
2002年 アメリカ映画

“オバカなソウルパワームービー”
黒人カルチャーを守るための組織ブラザーフッドが白人至上主義の組織と戦うという
バカげたストーリーなのだが、“オースティン・パワーズ”の脚本家ジョン・リドリーが
脚本・製作総指揮をしているとなると、うなずける。
全編ソウル、R&Bが流れ、人気コメディアン エディ・グリフィン演じる
“アンダーカバーブラザー”はアフロにロンドンブーツ、襟のでかいシャツにスーツ。
車はデカイキャデラックのクーペデビル。まるでEW&Fのメンバーがそのまま登場した感じ。
ジェームス・ブラウンが黒人カルチャーの象徴として狙われたり、
SOULやR&Bのミュージシャンのパロディもたくさん入っている。
笑わせながらも、真剣に見ていると、黒人カルチャーの歴史が伝わってくる。
途中、映画“ルーツ”の話が出てきて、黒人の圧力下での生活の話も出てくるが
黒人音楽はより楽しく、ファンキーに生きるために必要なものだと思う。
だからこそ、彼らは音楽やファッションを生活の一部とし、生活の中に息づくように
なったのだなと感じさせられる。
リズム感の良い子供、テンポのある話し方、歩き方1つ1つのダンスっぽさ、
長い間に培ったリズムは、僕らには無いものかもしれない。
ともかくバカバカしいのに、おしゃれで音楽を感じさせられるこの作品は
黒人版オースティン・パワーズのようなおバカなソウルパワームービーです。
笑って楽しくソウルでファンキーになりたい日に見ると、気持ちよくなれる1本です。



ブルース・ブラザース


監督:ジョン・ランディス
出演:ジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイド、キャリー・フィッシャー 他
1980年 アメリカ映画

“痛快なR&B/SOULムービー”
ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドの笑えて格好よくて音楽的で、
僕の大好きな要素が全て詰まっていると言っても過言では無い1本。
R&B,SOULの良さがぎっしり詰まったこの作品は、テレビ番組“サタデー・ナイト・ライブ”で
生まれたバンドなのだが、ミュージシャンが超一流。
ギターのスティーブ・クロッパー、ベースはドナルド・ダック・ダン。
さらに2人の黒スーツに黒ネクタイに黒サングラスに黒ハットの衣裳。
ド派手なステージング。
さらに牧師役でJBが出演したり、レイ・チャールズ、キャブキャロウェイなど大物が出演し、
演技している。
これを見るだけでも一見の価値あり。
当時僕らは、学生服の詰襟を逆にしてスーツみたいなことをして、ブルース・ブラザースごっこをした。
カーチェイス、クールな笑い、アメリカの格好よさが全て詰まっていた。
今見返しても、面白くて格好よい。
監督のジョン・ランディスもコメディ映画のヒットメイカーで、同じく“サタデー・ナイト・ライブ”出身の
エディ・マーフィーを起用した“ビバリーヒルズコップ3”や“星の王子ニューヨークへ行く”などで
有名である。
笑いとセンスを持ち合わせた監督と、2人の偉大なコメディアンが合体したからこそ
この“ブルース・ブラザース”は生まれたと思う。
ストーリーは、自分達の孤児院を守るため、スーパーバンドを作り、
その利益で金を納め、孤児院を存続させようという、いたってシンプルな話なのだが
この2人の演者・脚本だから、いたる所に笑いとおしゃれと派手なカーチェイスやどたばたが
散りばめられている。
僕が思うに、ジェットコースタームービーの始まりは、この作品からなのでは無いだろうか。
そして、R&B、SOULミュージックを本当にうまく使っている最高の音楽映画だと思います。



54フィフティー★フォー


監督:マーク・クリストファー
出演:マイク・マイヤーズ、ライアン・フィリップ、サルマ・ハエック、ネーヴ・キャンベル 他

配給:アスミック
1998年 アメリカ映画

“NYディスコ黄金時代の光と影”
70年代後半のニューヨークはディスコの黄金時代と言えるであろう。
アース・ウィンド&ファイヤーやKOOL&THE GANGなどディスコサウンドと呼ばれるものが東海岸にも台頭してきたあの時代、
ディスコとは何だったのか?
白人も黒人も関係なく身分も関係なく、おしゃれな人が誰でも楽しめる空間だった。
CLUB54もその1つで、アンディ・ウォホールやデザイナー、ミック・ジャガーなどのアーティストなどの社交場になっていた。

日本のディスコ全盛期は、チェーン店が多く、カリスマ的オーナーが切り盛りするところが少なかったので、
伝説的なディスコは少なかったが、昔の話を聞くと赤坂の“MUGEN”などは芸能人やクリエイターの溜まり場だったらしい。
そんな古き良きオーナーが仕切っていたディスコ時代の最期の輝きを映し出した映画がこの“54フィフティー★フォー”である。
このディスコの流れは後に“トンネル”などのクラブシーンに大きな影響を与えていると思われる。
選ばれた者しか入れない社交場。
今は金さえあれば誰でも入れるクラブだが、少し前のクラブはまるで京都の御茶屋“芸者遊び”的、
シークレットスポットの匂いを作り出していた。VIP席に誰がいるか、ちらちら見ていたものだった。
この映画は、そんなディスコの楽しみ方を教えてくれる1本である。
オーナー役を「シュレック」や「オースティン・パワーズ」でおなじみのマイク・マイヤーズが演じているが、
少しさみしさを背負っていて哀愁のある作りになっていて、それもまたGOOD!




DREAMGIRLS

監督・脚本:ビル・コンドン
出演:ジェイミー・フォックス、ビヨンセ・ノウルズ、エディ・マーフィー、ジェニファー・ハドソン
配給:UIP
2007年2月17日〜日劇3他全国ロードショー

“MOTOWNのカルチャーが全てここに在る”
ダイアナ・ロスやシュープリームス、ジャクソン5。リズムとホーンとダンスとファッション。そして車。
ファンキーでダンサブル、そしてブラックパワー。
ひたすら陽気でファミリーな感じでおしゃれで、まだ黒人差別が残っていて、
そんな力強いアメリカの黒人達の象徴だった。
“DREAMGIRLS”は、そんな時代を切り取ったR&Bディーバグループの
スターになるまでのストーリーである。
まずは、全編に流れているオリジナル楽曲。R&B、ソウルが当時のテイストで作られている。
軽快なダンスミュージック、裏打ちの入ったビート、
そしてアンサンブルとアクションの決まったホーンセクション。
ビヨンセ、エディ・マーフィが歌っている姿は、まさにモータウン全盛期を思い出させてくれる。
この手のライブシーンがリアルでないと一気に冷めてしまう時がある。
しかし、“DREAMGIRLS”のライブシーンは、本当のライブを見ているように、
リズミカルなカットラインで変なエフェクトは使わず見せてくれるので、世界に入っていきやすい。
さらに、中古車屋のオールドなキャデラックやフォード達が、さらに時代観のイメージを広げてくれる。
ただのサクセスストーリーではなく、リアルな人間関係なども描いているので、
2時間以上ある作品だが、すっと入っていけて、あっという間に終わってしまう。
古き良きアメリカの音楽シーンが目の前を駆け抜けていく。
元々ミュージカルだっただけあって、ストーリーは分かりやすい。
2006年のクリスマスにKING OF SOUL ジェームス・ブラウンが永眠した。
でもこの作品に会えて、またR&B、SOULの火が消えないことを期待している。




Standing in the shadow of MOTOWN (永遠のモータウン)

監督:ポール・ジャストマン
出演:ファンク・ブラザーズ 他
配給:シネカノン 2002年 アメリカ映画

“伝説のスタジオミュージシャン達”
“モータウン” R&B、SOULファンなら誰もが知っているデトロイトから生まれた音楽。

マーヴィン・ゲイ、スティービ・ワンダー、ミラクルス、テンプテーションズ、シュープリームス…
挙げればきりが無いほどブラックミュージックの大御所達がいっぱいいる。
そのサウンドを作ってきた人達、彼らのバックやアレンジをしていたバンドは1つしかない。
その名は、“ファンク・ブラザーズ”

この作品では、ファンク・ブラザーズの生きているメンバーが一同に会し、
自分達がレコーディングしていたスタジオ“ヒッツビルUSA”に訪ねていったり、
デトロイトの思い出の地を歩き、当時のことを語っている。
さらに、死んだ父のことを息子が語ったり、当時の様に年老いたプレイヤーがサウンドを作っていく様子を見せてくれる。
そしてファンク・ブラザーズが今の(2001or2002年当時)ミュージシャンとセッションしていくのである。

シボレーの工場などで貧しいところから職を求め移住してきた音楽好きの若者達が、
ファンク・ブラザーズのメンバーの大半である。
4時間で2、3曲、しかも1発録りで作っていたというのだから、
彼らのクリエイティヴ性や、プレイヤーとしての実力は計り知れない。今の時代には考えられないことである。
そんな中で名曲“リーチ・アウト・アイル・ビー・ゼア”や“ヒート・ウェーブ”“ドゥ・ユーラヴ・ミー”などが生まれてきた。

ドキュメントとライブのシンプルな作りなのだが、当時のMOTOWNの活気を感じることができる。
モータウンサウンドが好きな人は、この1本を見て、そのサウンドの誕生を知ると、もっと好きになることであろう。



ジャニス(JANIS A FILM)

監督:ハワード・オーク、シートン・フィンドレイ
出演:ジャニス・ジョップリン、THE JOPLIN BAND、KOZMIC BLUES BAND 他
1974年 アメリカ映画

“ジャニスとたばこと微笑みと”
この作品“JANIS A FILM”は、そのタイトルの通り、ブルースシンガー“ジャニス・ジョップリン”のライブとインタビュー、
当時の出演したテレビ番組の映像などで綴ったドキュメンタリー映画である。

まず、彼女のステージの強烈なこと。
何かが乗り移ったかのように歌う彼女の姿は、彼女のアルバム“チープ・スリル”のパワーある歌声のイメージそのままだった。
自分のリズムで歌うというより、ぶつけてくるような歌い方。
ブルースが魂の歌とか魂の叫びと言うなら、そのものズバリが彼女であろう。
インタビューでは、Truth(真実)とかreal(本物)という単語がやたらと出てくる。
作品の中にリハーサルのシーンが入っているが、カメラの前でも言いたいことを言いまくり、途中で帰ろうとするジャニスがいる。
いろいろな音楽ドキュメンタリー映画を見ているが、ここまで素を見せる女性がいただろうか?
彼女は自分の素の姿を見られることに何の抵抗も無い。というか、作っている部分が何も無い。
化粧もしないし、学生時代友達がいないことも普通に話し、そんな高校の同窓会や帰郷まで、
カメラが入っても普通通りの対応をする。
ただ、彼女の強力な“個”が周りの“集団”を動揺させているだけなのだ。
社会が彼女を受け入れきれなかったから、彼女はヘロインに頼ったのかもしれない。

ウッドストックやフェスティバルの貴重なライブシーン、真実、本物にこだわり続けた人生、
気取らずに自分の信念だけに突き進む姿、気持ちよいほど自分に正直に生きたジャニス・ジョップリン。
インタビューの時、やたらと煙草を吸っている彼女。
そして、どんな質問にも笑顔で対応する彼女は深く心に残った。

SUMMER TIME”の音色のように、どこかせつなく、不器用だがパワフルな彼女の生き方やステージを見て、
ブルースへの情熱、生きることへの情熱を感じて欲しい。

1970年10月4日、ハリウッドで彼女は永眠した。



ボディガード

監督:ミック・ジャクソン
出演:ケヴィン・コスナー、ホイットニー・ヒューストン 他
配給:ワーナー・ブラザース映画 1992年 アメリカ映画

“アメリカ音楽ビジネスとアーティスト”
“ボディガード”1992年公開された誰もが知っている超大作。

あえて扱ったのは、ホイットニー・ヒューストンが出ているからではない。
アーティストの苦悩と勇気が非常に良く表現されていて、
アメリカのエンターテイメント音楽ビジネスの頂点を感じさせてくれるからだ。

ケヴィン・コスナー演じる元大統領のボディガード・フランク。
母の葬式の日、休暇をとり、その日にたまたま大統領が暗殺される。
腕利きのフランクが、ホイットニー・ヒューストン演じるアメリカのトップシンガー・レイチェルのボディガードを
引き受けるところからストーリーは始まる。
トップミュージシャンであるが故、狙われるレイチェル。
しかも、狙っているのはファンや身内の人間、そしてフランクに嫉妬する男。
その中でも、ショーやクラブプロモーション、授賞式など、人前に出て行かなくてはならない。

作品の感想は、大作だけあって多くの人が語っているので、僕は音楽的にだけ評価していこうと思う。
まず面白いのは、歌と歓声がレイチェルとフランクという2人の心情でミックスされていること。
ビクビクしている時は、歓声がやたらと、ある人にフォーカスをあてMIXされている。
ステージ上の心情が伝わってきて、自分もステージの上にいる気分になる。
さらに、フランクが撃たれた後のステージ上の音は、ほとんど観客の声が無い。
その場しか見えていないレイチェルの主観的な聞こえ方なのであろう。
楽曲とノイズ(観客の声)のミックス具合で心理を表しているこの作品のミキサーは素晴らしい。
さらに、音楽エンターテイメントのバックヤードをうまく描いている。
僕もビックアーティストのドキュメンタリーを撮ったりしているが、楽屋では誰もが一人の人間に戻るものだ。
アーティストと1人の個人になる瞬間をしっかり見せている点も共感を持たせてくれる。

1つだけ文句をつけるなら、映画「用心棒」を観にいくシーンがあるのだが、
そのシアターが“アタシ”という名前であること。
“アタシ”って…。
本当に日本ってアメリカに理解されてないなぁ。



ムーンウォーカー

監督:ジェリー・クレイマー、コリン・シルヴァース
出演:マイケル・ジャクソン、ショーン・レノン、ケリー・パーカー 他
1988年 アメリカ映画

“MJはファンタジー好きの黒人だったのに…”
この作品は、ブレイクするまでのマイケル・ジャクソンのフィクションとノンフィクションをミックスして作られた作品だが、
PVやライブが一気に見られる。
ジャクソン5が“ABC”を歌っているところや、“ビートイット”“スリラー”“BAD”“ビリージーン”など
マイケルがまともな黒人でPOPだった頃のシーンや世界中の熱狂的なライブなど懐かし映像てんこ盛りである。
しかし、それらをつないでいるストーリーは、まさに“財力”とちょっと間違った?“ファンタジー”で笑いどころ満載。
大人になれないマイケルの心を、その当時のエフェクト技術を駆使して作ってしまった感じ。
コメディとして見るなら最高に面白い。
エンターテイメントとして見るなら、あれだけ格好のよいダンスとライブを台無しにしてしまうくらい、子供じみたストーリー。

この頃までは、まだマイケルは黒人。今は故鈴木その子みたいだけど…。
しかし、その信念を貫くマイケルはまさに“ONE&ONLY” 
この世界観は彼しか創れないだろうし、彼しかやろうとしない。日本人だと田原俊彦的世界観。
貴方は真似してみたいですか?きっとできないでしょ?だから見てみたくなるのかな?
そんな不思議な気持ちに僕はなってしまった。否定的なことを言っているつもりはない。
こんな子供の気持ちや独自的な考えを持てたから、あんなに格好よい音楽やダンス、ライブを作れるのだと思うから。

ここで教えてもらったのは、“どんな時でも自分の感覚を信じ貫き通すこと”
独創的世界を世界中に広めたのだからマイケル・ジャクソンはスゴイと思う。
MJはファンタジー好きの黒人だったのに…今は… 


これ以上書くのはもうやめよう。バブルス君は今でも元気なのかなぁ?



ザッツ・ザ・ウェイ・オブ・ザ・ワールド

監督:シグ・ショア
出演:ハーヴェイ・カイテル、エド・ネルソン、シンシア・ボスティック、アース・ウインド&ファイアー 他
音楽:モーリス・ホワイト、アース・ウインド&ファイアー
配給:シネフィル・イマジカ
2007年4月14日〜シアターN渋谷にてレイトショー

“音楽の裏舞台とEW&F”
“SWEET SWEET BACKS”など映画音楽にも深い関わりのある、
70年代ディスコダンスとソウルで世界中に
知れ渡ったKING of Soul アース・ウインド&ファイアー。
30年前の作品だが、彼らが出演もし音楽を提供している作品があった。
あの有名なアルバム「暗黒への挑戦」が何とサントラだったというのだ。
その作品こそが、“That's the way of the world ザッツ・ザ・ウェイ・オブ・ザ・ワールド”なのである。
映画のラストには、EW&Fの当時の伝説のライブシーンが収められている。
宙吊りになるベーシスト・ヴェルデン・ホワイト、ピアノごとグルグル回転するセット、
そして、今やもう見られないモーリス・ホワイトとフィリップ・ベイリーのツインボーカル。
最もパワフルだった頃のEW&Fが見られるのである。ソウルファンならお涙ものである。
しかも出演者として出ている。
主演は“SMOKE”や“タクシー・ドライバー”で今や有名なハーヴェイ・カイテル。
70年代のニューヨークの音楽業界の裏側を描いている。
マフィア、薬、パーティ、男女関係…業界のドロドロした部分を描きすぎた為、
全くヒットせず、日本では公開されなかった。
EW&Fが大ヒットし、このアルバム「暗黒への挑戦」が全米No.1になったにも関わらず…。
この頃はまだ人種問題があった。白人アーチストが光で、黒人アーチストが影だった時代。
EW&Fのように音楽的にもエンターテイメントとしてもすごい奴らがすぐに出てこれない時代であった。
そんな時代だったからこそ、この作品がヒットしなかったのかもしれない。
あの頃、多くの黒人アーチストや彼らを支える人達がいたからこそ、現在の人種を超えた音楽シーンが出来上がったのだろう。
音楽には国境も人種もない。そんな先人達が戦った歴史としてこの作品を見るのも良いだろう。
“That's the way of the world”ブラックミュージックが世界に羽ばたく直前の苦悩とパワーの歴史である。




ソウル・オブ・マン

監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:スキップ・ジェイムス、J・B・ルノアー、ベック、イーグル・アイ・チェリー、ルー・リード 他

2003年 アメリカ映画

“生活に必要な音楽とは?”
マーティン・スコセッシがプロデュースしたブルースムービープロジェクトの1作品。
この“THE SOUL OF A MAN”は
恥ずかしながら、このタイトルと
“ブエナビスタソシアルクラブ”のヴィム・ヴェンダースが撮っているということだけで見ることにした作品だ。
何の先入観も無いまま見た。
作品は、1977年NASAから旅立つボイジャーから始まる。
どんどん宇宙に旅立っていくボイジャーは多くの地球の声や音を積んで、いつか地球外の生物に出会い、
気づいてもらう終わりなき旅を始めたのだ。
その中に積まれた1枚のレコードから話は展開する。
無意識のままに音楽に引き込むエピソードから始まるので、この後のストーリーにすんなり入れる。

作品的には、20世紀初頭の黒人アーチストのブルースやソウルを取り上げ、そのシーンは白黒、
そしてそこで演奏した曲を現在のアーチストがLIVEでカバーしているところをカラーで見せている。
当時のBland Willson Johnsonやスキップ・ジェイムス、JBルノアーのデビューまでのいきさつを再現し、
インタビューとイメージで表現している。
当時は綿摘みの小作人として働かされていた黒人達。
“どこに言ってもつらい暮らし”と黒人生活を歌い上げている。
おもしろいのは、Bland Willson Johnsonの曲をマーク・リボーが、
スキップ・ジェイムスの曲をルシンダ・ウィリアムスが歌っていること。
その当時のつらい黒人の魂(ソウル)を白人がリスペクトし、歌っているのだ。
特にアコースティック1本で歌っているマーク・リボーの“ダーク・ワズ・ザ・タッチ”などは、しぶくネックをしならせながら、
ストリングタッチも繊細にやっているので、TVのスピーカーでなく劇場でいい音で聴くに限る。
音楽映画は、音のタッチをより楽しむためにも、劇場で見たほうがよいと思う。

この作品で特に印象に残ったのは、ナレーションやインタビューの話と曲以外にほとんど音が無いことだ。
状況音とかもないので、言葉と音楽が強烈に耳に飛び込んでくる。
黒人のつらい歴史、それを乗り越えるために必要な音楽、それがブルースであり、ソウルであったのだろう。