幸せはシャンソニア劇場から

監督:クリストフ・バラティエ
出演:ジェラール・ジュニョ、クロヴィス・コルニアック、カド・メラッド他
2008年 フランス映画

“音楽と権力”
第二次世界大戦前のフランスの1つのショーシアターとアーチスト達を描いた作品“幸せはシャンソニア劇場から”
権力に、音楽や芸術が押さえ込まれるという経験は、今の時代の日本で生きている僕達は
まったく体でわかっていないが、本当に強い意志の中で“シャンソン”や“レビュー”を守った人がいるから
現在もジャンルとして生き残っているということを痛感させられた。
スタッフとアーチストや出演者の絆、親子の絆、愛の力…
この作品の中には、音楽や芸術に全てを賭けている人達が生き生きと表現されていて
とても温かい気分になれる。
フランス映画的独特のゆったりした作品なのだが、すごく展開が早いのは何故だろうか?
ハリウッド映画のようにカット割やCGなどを使用している作品でもないのに。
きっとキャラクター1人1人がしっかり表現されていて、全編に流れているシャンソンが心地よく
スピード感を感じてしまうのだろう。
アーチストにとってライブハウスや劇場は故郷である。
最近名物支配人とかも減って、単なる貸しホールみたいになってきている日本のシーンでは
こんな気持ちになかなかなれないかもしれないが、昔はこのような人情話がいっぱいあった気がする。
言論も表現も自由を認められ、国や権力者に支配されていない反面、
パワーや絆が少なくなってしまったのかもしれない。
新しいシーンが生まれやすい環境というよい部分もあるが、伝統を守ることも大切なのではないだろうか?
この作品を観て、権力の中で音楽を守ってきた人達のことを考えると、
“音楽”や“芸術”の大切さが身に染みてきます。



CATCH THE RAINBOW

監督:牧野耕一
出演:東京スカパラダイスオーケストラ
2003年 日本映画

“スカパラという個性”
2003年夏、約1ヶ月に及んだ東京スカパラダイスオーケストラの
ヨーロッパ8カ国18公演ツアーの様子をフィルミングしたドキュメンタリー“CATCH THE RAINBOW”
まず彼らが“SKA”ではなく“TOKYO SKA”というジャンルの唯一無二の存在であることを主張している。
そして、“暴力的なハッピー”を打ち出していることを語る。
この作品を見る上で、このキーワードは必要なワードである。
本当に違うタイプの人間が、1つの“東京スカパラダイスオーケストラ”という組織に属している様子を
うまく切り取っている。
普通のバンドなら、決して交わらないであろうキャラクター達。
もしくは、強いキャラクターにつぶされてしまいそうで、すぐに崩壊してしまいそうなメンバー構成である。
しかし“TOKYO SKA”という新しいジャンルを作るためにも
全員が必要であり、様々な人間が必要だったのであろう。
誰にも負けない“強さ”は暴力的という方向にあるが、それだとアンダーグラウンドで生きるしかない。
そこに、音楽で1つになるという“ハッピー”があるから、彼らは異国で成功したのだろう。
フィルミングをした監督兼カメラマンの牧野耕一。
もし本人が見たらよそよそしいと言われそうだから“マキ”
彼は僕と共にライブやエクストリームスポーツを撮っていた仲間なのだが、
彼の性格がよく出ている撮り方で、全編、激しく展開していく。
欲しいカットは、躊躇せず、ズバッとクイックにズームINし、いらなくなると違う画にクイックにPANしていく。
本人が見せたいものをどんどん見せていくのだ。
この作品は、遊びのカットがまったく無い。
彼が撮ってきて、見せたいものだけを並べたように見える。
自分と言うものを確立する勇気の無い人は、この作品で自分の尻をたたいてほしい。



クロッシング・ザ・ブリッジ〜サウンドオブイスタンブール〜

監督:ファティ・アキン
出演:アレキサンダー・ハッケ、ババズーラ、オリエント・エクスプレションズ、デュマン、シヤシヤベンド 他
配給:アルシネテラン
2007年3月〜シアターN渋谷にてロードショー

“西洋と東洋の間で”
ドイツのベーシスト、ベルリンアンダーグラウンドの大御所ノイバウテンのアレキサンダー・ハッケが、
ベースやコンピューター、レコーディング機材を持って、トルコに向かうところからドキュメンタリーはスタートする。
雑多な音楽、ファッション、若者。街は活気にあふれている。イスタンブールには72の民族が行きかうらしい。
アンダーグラウンドな人やストリートのミュージシャンやダンサーにフォーカスをあて、
ハッケが出会いながら音を収集していくというものだ。
ロックの先駆者的存在エルキンコライ。見るからに内田裕也。
シギナベイベーと言い出しそうなその人は、若者達に大きな影響を与える。
パンクの“デュマン”、オルタナ的な“レプリカズ”ロックだけでなく、HIPHOPもトルコで育成されている。
街にはブレイクダンサーがいるし、高速ラップのジェザもいる。
HIPHOPスタイルの彼はタトゥのショップやB-BOYファッションショップも経営する。
イスラムのスーフィー音楽、ジプシー音楽、クルド民謡、様々な音楽がハッケのハードディスクに収録されていく。
イスタンブールの音楽で感じたこと、それは全てのアーチストが“イスタンブール”“トルコ”の土地を真剣に考えていること。
どのアーチストのインタビューにも、国とか、西洋と東洋の融合とか、
8分の9拍子という独自の民族的ビートとか、
そういったことをしっかり考えながら音楽を作っていることが感じられる。
多種多様な人が生きているこのイスタンブールだからこそ、音楽というもので人と人とを繋げることを真剣に考えるのであろう。
音楽は世界中が1つになれる道具であることを実証してくれている。
“ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”や“ミュージック・クバーナ”のように、
音楽ドキュメンタリーは、ストリートの真の姿を映し出してくれる。
今までイスタンブールというものに対して歴史的な考え方しか持てなかったのに、
そこに生きる現実の若者達の姿がこの作品でつかめてしまう。
クラブもディスコもあり、街には若者があふれ、ロックもHIPHOPも展開する。
ヨーロッパとアジアを結ぶ彼らのサウンドは音楽の壁を取り除くための重要なファクターなのであろう。



MUSICA CUBANA(ミュージック★クバーナ))

製作総指揮:ヴィム・ヴェンダース
監督:ヘルマン・クラル
出演:ピオ・レイバ、マリオ“マジート”リベーラ、ペドロ“エル・ネネ”ルーゴ・マルティーネス、テルマリー・ディアス  他
配給:ファントム・フィルム/ハピネット
2006年7月シネクイントにてロードショー

“キューバ音楽の伝統”
映画から音楽を知ることも多々ある。
ヴィム・ヴェンダースの“ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”を見て、
ピオ・レイバのことに興味を持ち始めた。
“ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”では、アメリカに渡って大成功を収める
“ライクーダ”のドキュメントをストーリーにしていた。
キューバの歴史が止まってしまった街並。そこに生きる音楽の生き字引的人々。
歌姫と青い海と白い波、そして、灼熱の太陽が印象的だった。
ゆったりとしたリズム、ゆったりとしたカットライン。キューバ音楽が、
独特ののんびりとした中にもソウルフルな印象を与えてくれる。
今回の作品“ミュージック★クバーナ”は、そんなヴィム・ヴェンダースが製作総指揮で、
ヘルマン・クラルが監督し、“ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”にも出演していた
キューバ音楽の重鎮“ピオ・レイバ”と、タクシードライバーの出会いから始まる。
冒頭の散髪屋のシーンを見た時、“マルコムX”の散髪屋のシーンを思い出させられた。
黒人の人達っておしゃれだと思う。
散髪屋がサロン的雰囲気を持っているところも、そう感じさせられる理由の1つでもある。
キューバのタクシーもレトロなおしゃれ感いっぱいだ。
昔のシボレーなどが50年以上も現役で走っていたりするキューバは、街中が1つの美術館にも見えてくる。
そんなピオとタクシードライバーが現代活躍している若手ミュージシャンをスカウトし、
ビックバンドを結成していく。
自分達のルーツに対するリスペクトが、フィルム全体に広がっていく。
世代を越え、セッションの中、交流を深め、年の差を埋めていく。
フィクションなのか、ノンフィクションなのか、途中からわからなくなっていく。
ここまで人の交わりを見せるためには、きっと大量のフィルムを回したに違いない。
特に印象的なのは、ピオも若手のアーチストも、皆笑っていること。
そして、全身でリズムをとっていること。
FF(フルフィギア)のカットが多く感じた。だからこそ、全身でとっている彼のリズムを感じられるのかもしれない。
そして、この結成されたバンドは、東京・鶯谷のキネマ倶楽部のライブシーンで終わる。
前回もアメリカという舞台で、音楽が国境を超えることを証明したが、
今回は日本でのライブということもあり、より印象に残った。
ピオは2006年3月、88歳で永眠した。
でも彼の足跡は“ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”と“ミュージック★クバーナ”という2本の映画となったことで
永遠と残り続けることであろう。



フランシスコの2人の息子

監督:ブレノ・シウヴェイラ
出演:アンジェロ・アントニオ、ジラ・パエス、ダブリオ・モレイラ、マルコス・エンヒケ 他
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2007年3月〜シャンテシネ他全全国順次ロードショー

“家族の愛が創り出したセルタネージョ”
ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノ。ブラジルではペレやジーコに匹敵するスーパースターらしい。
14枚のアルバムの総売上が2千万枚を突破するミュージシャン。
この作品を見るまでは名前も知らなかった。
以前“Oi ビシクレッタ”というブラジル映画を見て、ロベルト・カルロスというアーチストを知った。
ギターとアコーディオンの懐かしく温かい音色はブラジルの大きな大地と家族への想いをかきたてる。
地球の反対側の国ブラジルの音楽を聞いて、なぜ、懐かしさまで感じさせられるのであろうか?
ストーリーとしては、貧しい子だくさんの父親“フランシスコ”が
長男のミロズマルと弟のエミヴァルに自分の全てを投げ打ってアコーディオンとギターを買い与えることから始まる。
市場やカーニバルのプロの演奏者に息子にアコーディオンを教えてくれるよう頼み込む。
貧困なブラジルでは、小作農の子供達は教育もまともに受けられず、
サッカー選手かミュージシャンくらいしか、そこからの脱出方法はなかったのだ。
しかし、フランシスコの思い入れとは別に、妻の父から農地も取り上げられる。
それでも子供達をミュージシャンにしたいという夢を捨てきれないフランシスコは家族を連れて都会へと向かう。
バスのターミナルで歌う子供2人にエージェントが近づいてくる。
子供の夢のため、どさ回りを2人にさせる。
親子の愛に揺れる家族。そんな時もひたすら子供をミュージシャンにさせるため、頑張る父。
エージェントに裏切られるも、2回目のツアーに向かわせる。そこでエミヴァルの交通事故死。
家族は悲しみに打ちひしがれるが、子供達は再び音楽の道に進む。
そして、兄の姿を見ていた弟は兄とグループを組む。
この後は、作品を見て楽しんでほしいのだが、この話が真実の物語であり、
そして、このグループも家族も実在することにまず驚いた。
家族の絆や愛の中から、本物の音楽が創りだされていく。
だからこそ、2千万以上の売り上げもあるのであろう。
最近の日本の音楽シーンにおいて、曲はムーブメントとして一瞬光るものがあるが、
そのアーチストの生き方や考え方に共鳴できる人は減ってきたように思う。
だからこそ、一瞬で消えていくアーチストも多いのだろう。
映画好きにも見て欲しいのだが、この作品はぜひ、ミュージシャンや役者など、“表現者”に見てもらいたい。
家族、そして自分の生き様、壁にぶち当たっても失わない自分の作品に対する信念、
そして、この作品に流れる空気と音楽と笑顔を感じて欲しい。
家族の愛が創り出した真実のサクセスストーリーは、ここに在る。