8 Mile

監督:カーティス・ハンソン
出演:エミネム、キム・ベイシンガー、ブリタニー・マーフィ他
2002年 アメリカ映画

“ストリートという生き方”
エミネムを世界で不動の位置まで押し上げた、今やHIPHOPムービーの定番となっている作品“8 Mile”
デトロイトで黒人に混じり、マイクバトルを戦うエミネム演じるラビット。
HIPHOPは黒人文化。
白人のラッパー“ラビット”は存在自体が非難の対象だった。
しかし、彼を応援する友人達もいて、ラビットの才能も理解していた。
安い賃金で黒人に混じり、プレス工場で働き、男に頼って生きることしかしらない母と幼い妹、
母の連れ込む男という4人で、市外から8mile離れた貧しい地区でトレーラー暮らしをしていた。
ラップで一発当てようという周りの黒人達の嫌がらせを受けながらも、
友人、クルー達と共に、信念を貫いて生きていく。
ストリートには、いい人間もいるが、相手の才能を使って一儲けしようとする奴がいる。
アメリカみたいにバイオレンスな世界では無いが、日本でもそんな人はたくさんいる。
クラブイベントのオーガナイザーと称して調子よく寄ってくる人、パーティをやたらと開いたり、出入りしている仲介人。
才能をノリだけで使ってしまう人なんてたくさんいる。
しかも、何か“オイシイ事”を探しているだけのアーチストもたくさんいる。
ストリートは生のバイブスを感じ、自分を磨く場所であり、本当のネットワークを作る場所なのだが、
そんな気持ちのかけらも無い人がたくさんいる。
ストリートは、何か新しいことをやったり、無名だけど上に行きたい人間が表現する場所。
資格などが必要な場所でなく、実力やネットワーク力が必要なのだ。
もちろん、良い出会いもあるが、悪い出会いも多い。
ストリートでは、相手を見極める力が必要なのである。
“8 Mile”に見るストリートの生き方は、ストリートを軽い気持ちで見ている人間への警告でもある。
信念を貫く力こそ、ストリートという生き方である。



SR2 サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム


監督・脚本:入江悠
出演:山田真歩、安藤サクラ、桜井ふみ、駒木根隆介他
2010年6月26日より全国順次公開

“ある意味リアルな日本のHIPHOPムービー”
低予算でインディペンデントな作品で、ゆうばり国際で賞を獲ったHIPHOPムービーがあると聞いたのと、
試写状がかなりインパクトがあったので、試写室に足を運んだ。
その作品は“サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム”
前作は、4度もリバイバル上映というウワサでライムスターのSHIRO君も絶賛していたので、
かなり期待していた。
オープニングで、サイタマにいそうな間違った2人のラッパーが出てくる?
一瞬、え?頭の中に疑問符が浮かぶ。
これでいいのか?
ストーリーが進むにつれ、さらに疑問符が浮かぶ。
トニー谷のようなラップ。
田舎臭くて、格好良いHIPHOPのイメージが1つも無い。
パキッとクリアな映像。
10分位したところで、ちょっと待てよ…と思った。
これが、今の日本の田舎のHIPHOPの現実じゃないかと気づく。
雑誌や間違った情報で勘違いしているラッパー気取りの人はたくさんいるじゃないか!
しかも、暴走族やヤンキーあがりのラッパー気取りの若者は、地方でたくさん見るではないか!
これは、リアルな日本のHIPHOPシーンを表現しているぞ。
そう思うと、この作品は見る価値があると急に思えてきた。
でもピュアにHIPHOPが好きで、本当にHIPHOPを愛しているんだなと思うと、面白く見ることが出来た。
きっと、変にイメージを持って見た自分が間違っていたんだ。
心を空っぽにして見ると、とても面白い作品である。
空っぽな気持ちで、この作品と向かい合って欲しい。



TAKI183

監督:小林正樹
出演:塚本高史、忍成修吾、窪塚俊介、加藤ローサ 他
2005年 日本映画

“グラフィティをフューチャーした日本映画”
グラフィティをフューチャーした日本初の映画“TAKI183”
HIPHOPの要素の中でグラフィティは外されがちだが、そこにフォーカスを当てたことは大切だと思う。
ニューヨークの地下鉄(今はもう無いが)やビルの壁にスプレーで描いた絵やデザイン文字などのことを
グラフィティと呼んでいて、B-Boying(ブレイクダンス)、MC(ラップ)、DJと合わせ
HIPHOPの4大要素と呼ばれている。
“TAKI183”とは、NYのグラフィティを始めた人物とも言われており、
この作品の冒頭で、彼の説明やグラフィティとは何かをNYから伝えてくれるシーンがある。
ストーリー自体は、渋谷を舞台にした話なのだが、“ACC”“トミー”という言葉が出てきて、
ひょっとして“TOMI-E”のこと?と食いついてしまった。
日本で有名な2大グラフィティアーチストと言えば“カズロック”と“トミー”。
ただの落書きでなくて、アートとしてHIPHOPとしてグラフィティを確立させた男だ。
音楽も、日本人のMC、DJ達が作り出していて
“日本のHIPHOP”カルチャーとして創り出した映画になっている。
美術館に飾られないアート。HIPHOPの中でも文化的要素を打ち出す“グラフィティ”。
塚本高史演じるトミーが楽しさ、苦悩など様々な気持ちを表現している。
日本独自のHIPHOPカルチャーの“明”と“暗”。
日本版“ワイルドスタイル”という感じの作品。
最近、俺はラッパーだ!!DJだ!!B-BOYだ!!とカルチャーとしてよりスタイルとして
HIPHOPのパーツを解釈している人が多い気がする。
この作品でHIPHOPはカルチャーであることを再確認して欲しいものである。



ザ・ウォッシュ

監督:D・J・プー
出演:・ドクター・ドレー、スヌープ・ドッグ 他
2001年 アメリカ映画

“ウエッサイの完全HIPHOPムービー”
スヌープ・ドッグとドクター・ドレーの映画。
言ってしまえば、彼らのPVの世界にある、女とクスリと車と音楽に包まれたウエッサイムービーだ。
イメージそのまんまである。ローライダーにドラッグ。
洗車屋で働く2人が、Tバックビキニの女を自分達の店で働かせたり、
ヤレそうな女とヤリまくったりとウエッサイイメージそのままである。
さらにHIPHOP専門FM局から2人のサウンドが流れ、プロモーション的要素も強いのかな?とも感じられる。
率直に言うと、“アメリカングラフィティ”のウルフマンジャックラジオショーが、ロックンロールでなく、
HIPHOP専門局でブルースブラザース的感覚をブラックカルチャーにした映画と言えばイメージがわくでしょうか?
とにかくウエッサイのハードコアなにおいのあるバカバカしいマヌケムービーです。
HIPHOPを娯楽やファッションとしている西海岸の人達やスヌープやドレー好きな人が見ると、
ライフスタイルが伝わってくる作品として楽しめると思います。
ケンカやスラング大好きな人にはリアルに伝わってくる会話や言い回しがたくさんありますが、
実際にアメリカでこんな言葉で会話したらすぐに揉め事に巻き込まれてしまうと思われます。
西のウエッサイHIPHOPを感じるにはストレートに感じることのできる作品です。



YOU GOT SERVED

監督:クリス・ストークス
出演:オマリオン、マーカス・ヒューストン、ジェニファー・フリーマン 他
2004年 アメリカ映画

“圧倒されるダンスシーン”
オープニングから圧倒されるようなダンスバトルで作品に引き込んでいく。
全編“B-BOYING”のチームメイトの友情のストーリーなのだが、
悪ながら、ダンスで、生活や気持ち、友情の大切さを手に入れていく話である。
数チーム出場するのだが、それぞれのチームにスタイルがあって面白い。
既存のチームかと思っていたが、この映画のキャスティングで、1からオリジナルということに驚かされた。
コリオグラファーの人のネタの多さにびっくりしてしまう。
ネタのバリエーション、コミカルにバカにしていく感じ、まるで本当のバトルの迫力がある。
撮影中に、負けるはずのチームが押しすぎて、撮影を中断したというエピソードもあるそうだ。
ブレイクダンスのバトルの面白さの全てが見られる1本である。
さらに、ストリートバスケやLAスタイルのストリートファッション、ストリートの若者の問題など
ストリートカルチャーをふんだんに盛り込んでいて、B-BOYING、
ブレイクダンスのチームバトルやその考え方を見る第一歩として見たい人にはオススメの1本です。



ザ・ショウ

監督:ブライアン・ロビンス
出演:ドクター・ドレイ、ノーティバイネイチャー、ランDMC、スヌープドギードッグ他
1995年 アメリカ映画

“90年代前半のHipHopシーンが分かる1本”
85年、ラッセル・シモンズが設立した“Def Jam”レーベルの10周年を記念した
HipHopドキュメンタリー+ライブ映画である。
ラッパーを中心に、しかもデフジャムレーベル中心に描いた作品だが、
90年代ラップというカルチャーが大きく変化していく様子が手にとるように分かる作品である。
ドクター・ドレイ、ランDMC、スヌープ、ウォーレンG、ウータンクランなど、
この時代アメリカをにぎわしたラッパー達の考え方や素顔を見ることが出来る。
スヌープの裁判や過激な発言など、HipHopが持つ“ストレートな発言”“ストレートな表現”が出てくる。
自殺、ギャング、殺人、ドラッグ… ヒップホップは自分達の現状を外に伝える手段として、
彼達が使っていたことは間違いない。
もちろん、音楽ビジネスとして拡大して、マーケティングの中から“POP”になっていったものも多いが、
この頃の“HipHop”は自己主張の場として、完全に成立していた。
ウータン・クランが来日しているシーンの中で、ライムスターのマミーDが渋谷でフリースタイルをしているシーンも入っていて、
日本のHipHopの初期を一瞬垣間見ることが出来る。
HipHopがカルチャーとしてだけでなくビジネスに変わっていくそんな時期の勢いと問題点、
可能性などを浮き彫りにした作品である。
90年代前半のヒストリーを確認するという意味でもチェックしておきたい1本である。



STEP UP2〜THE STREET〜

監督:ジョン・M・チュ 製作総指揮:アン・フレッチャー
製作:アダム・シャンクマン他
出演:ブリアナ・エヴィガン、ロバート・ホフマン 他
2008年 アメリカ映画

“B-BOYINGは全ての人のもの”
前作“STEP UP”は、B-BOYNGやHIPHOPダンスの世界に生きてきた男の子と、
バレエダンスの世界に生きてきたお嬢さんが、ダンスを通じて住んでいる世界を超え、
1つになっていく融合の素晴らしさを教えてくれたダンスムービーだった。
この作品の第2弾はどんな作品だろう?と思ってみたが、まったくの別ものだった。
これは“B-BOYING”は全ての人の“自由”を表現するダンススタイルだと教えてくれる1本。
ストリートでワイルドに生きている人が“リアル”で、学校に行っている人はB-BOYになれない訳じゃない。
自由にダンスで表現し、友達と1つの目標に向かって何かを創り出そうとしている人全てが
B-BOYになれるということを教えてくれる。
B-BOY No.1を決める“BC ONE”の世界大会でニューヨークに行ったが、
そこは本当にフレンドリーな空間でバイオレンスのにおいなど無い。
“B-BOYは怖い”みたいな変な空気が流れているが、“B-BOYING”は全てのブレイクダンスを愛し
何かを創ろうとしている人達のものだと教えてくれる作品だった。
作品のカラーリング、色やトーンも好きな作品だし、
HIPHOP、B-BOYINGのパワーがあふれている気持ちの良い1本です。




STEP UP

監督:アン・フレッチャー
出演:チャニング・テイタム、ジェナ・ディーワン、マリオ・ドリュー 他
配給:エイベックス・エンタテインメント・松竹
2007年3月公開

“夕陽にジャンルはとけていく”
バレエとHIPHOP。伝統と破壊。上流階級とゲットー。厳格なステージとストリート。
とにかくこの作品は、対極的な2人の主人公が融合することがすべてである。
まずは、アメリカのアートスクールとゲットーのクラブ。
アメリカのアートスクールはよくアメリカの映画やドラマの題材になっている。
例えば「フェイム」とかがそうだが、上流階級の人達だけでなく、貧しくても奨学金で入ってきた生徒達が
ダンスやアート、音楽という夢に向かって邁進している場所である。
一方、ゲットーのクラブは、夢を持たない若者の溜まり場として表現されている。
この差がテーマになっていて、そこから抜け出し、夢の場に行くというストーリーなのだが、
ゲットーからでも夢をつかむことはできるのでは?と思ってしまった。
この作品の監督はコリオグラファー、振付師出身の人だそうだ。
だからこそ余計に、そんな人達がいっぱいいることを知っていると思うのだが…。
中盤のシーンで、アートスクールの女性とゲットー出身で社会奉仕中の男性が
夕陽に染まる海辺で踊るシーンがある。
あれがエンドシーンであればよかったのに…。
あとは、夢をスクールで追いかけるには?とかダンスアカデミーに入るために頑張るとか、
ひかれたレールの上をただ進んでいくだけ。オリジナリティを追求していく姿は中盤で終わってしまう。
優等生が正しいと言われている気がして少々悲しくなった。
全体的なストーリーはわかりやすいし、ダンスの良さはいっぱいあるけど、
本当に融合したのか?と思うと少々疑問が残る。
エンドロールに一般のオーディションで勝ち残った人達がダンスをしている映像が出てくる。
これは面白い試みだと思う。




プラネット B-BOY

監督・制作:ベンソン・リー
配給:トルネード・フィルム+イーネット・フロンティア
2010年1月9日〜渋谷シネクイントにてレイトショー

“カルチャースポーツの真髄を見よ”
世界三大B-BOYバトルの1つ、バトル・オブ・ザ・イヤーのドキュメンタリー映画
“プラネットB-BOY”
B-BOYとは、ブレイクダンスをする人のことを言うのだが、この大会はクルー対抗バトルである。
フランス・アメリカ・日本・韓国のチームがフューチャーされていて“個”が強いストリートカルチャーにおいて、
“チームのつながり”と“HIPHOP”という文化への尊敬の念が詰まった1本である。
それぞれの“生き方”と“世界大会”。
アスリート的一面が強くフォーカスされている作品だが、カルチャーとしての部分もそれぞれの国民性も含め、
しっかりと描かれている。
NewYorkで個人のB-BOY世界一決定戦“BC ONE”を生で見て撮影をしてきたが
B-BOYバトルの面白さは人生や考え方がストレートにダンスに表れてくることであろう。
規定が無い分、自由に発想できるこのジャンルでは、それぞれが新しいスタイルを追い求めている。
物まねでなく、自分達のスタイルを創り出し、創り上げたチームが世界一をとることができる。
規定が無い中で勝敗をつけるのは難しいと思うが、気持ちのぶつかり合いを楽しく見る事ができた。
まさにエクストリームスポーツであり、エンターテイメントショーだ。
NewYorkブロンクスで生まれたHIPHOPカルチャーの1つ“B-Boying”が、
しゃべらなくても人に伝えることのできるエンターテイメントツールだということ確信させてくれる
ドキュメンタリー映画“プラネットB-BOY”
この1本を見てカルチャースポーツの真髄を知ると良いだろう。



ビースティ・ボーイズ撮られっぱなし天国

監督・製作:ナサニエル・ホーンブロウワー(ビースティ・ボーイズMCA別名)
出演:ビースティ・ボーイズ(マイクD、アドロック、MCA)、ミックス・マスター・マイク、
マニー・マーク、アルフレッド・オルティズ 他
配給:アスミック・エース
2006年7月29日〜シネマライズにてロードショー

“ビデオの申し子 ビースティ・ボーイズ”
ビースティ・ボーイズの僕の印象はHIPHOP界のビジュアリストというイメージである。
PV(プロモーションビデオ)においても常に新しいアプローチをしている。
遊びっぽい感じで楽しめるPVは、ビースティのストリートで楽しいイメージを作り続けている。
今回、そんなビースティ・ボーイズのライブが映画になるというので試写会に行った。
2004年10月9日、NY、マジソン・スクエア・ガーデンのライブを
ファン50人が勝手に回した50台のビデオカメラの映像を編集し作り上げた作品だという。
50台のカメラの1台1台の映像を並べた1枚の絵。
秋葉原の電器屋に積み上げられたTVのモニターをイメージしてもらったらよいだろう。
ライブのスタートは、そんなところから始まる。熱狂のマジソン・スクエア・ガーデン。
必死なファン目線のカメラ。
客で有名人を見つけるとライブそっちのけで撮る人もいるし、バックステージに忍び込もうとする人もいる。
途中トイレに行って自分の放尿シーンを撮っている者もいる。まさに“LIVE”だ!
そんな映像を編集したナサニエル・ホーンブロウワーも素晴らしい。
途中飽きそうなところもエフェクトで面白く編集され、限りなくアマチュアイズムというかブートレックな映像を、
1本のエンターテイメント作品としてまとめ上げている。
僕も武道館のライブで十数カメ出すが、それはプロのカメラマンが、僕の指示を受け撮っているから、
編集もやりやすいというもので、こんな無指示で、コンセプトもバラバラな映像をよくまとめたな〜と驚きを隠せなかった。
ともかく、この作品を見て、ビースティ・ボーイズの魅力がさらに増した。自由度の高いライブ映像。
日本でもこんな企画が通るようになれば、もっと面白い音楽映像の世界が広がるはずだ。



GET RICH OR DIE TRYIN' (ゲット・リッチ オア ダイ・トライン)

監督・製作:ジム・シェリダン  音楽:クインシー・ジョーンズ
出演:カーティス“50セント”ジャクソン、テレンス・ハワード 他
配給:UIP映画  2006年6月〜シネマライズにてロードショー

“Gスタイルと50セント”
1本の映画“8 mile”で、エミネムがフィルムを通して世界に知れた白人ラッパーなら、
50セントは“ゲット・リッチ オア ダイ・トライン”で世界中に名を売る黒人ラッパーであろう。
同タイトルのCDは世界中で1200万枚以上売れた。
NYのクイーンズ生まれの50セントはGラッパー(ギャングスタラッパー)として世界中に名を馳せた。
貧しくてドラッグ漬けで、殺しも日常というクイーンズで、9発の銃弾を浴びても死ななかった男。
昔から2PACの殺害といい、HIPHOPはギャングと結びついていた。
ラップという音楽が、サクセスストーリーを生み出すものとして信じている若者も多いはず。
日本も多くのGスタイルのラッパーがいるが、アメリカ人たちのリアルな苦しい生活から生まれてきた
“本物”とは少し違うのかもしれない。
面白いのは、監督が、社会派のジム・シェリダンであるということ。
“父の祈りを”などの社会派の監督だからこそ、50セントの心の琴線に触れる
ストーリーを生み出すことができたのだろう。
そして、音楽がクインシー・ジョーンズであること。
50セントの今のHIPHOP音楽とアメリカンPOPSから映画音楽まで、アメリカの音楽シーンの
中心で行き続けるクインシー・ジョーンズが融合したというのが、さらにこの作品をスケールアップさせている。
そして、監督ジム・シェリダンと50セントを引き合わせたのが、U2のボノであること。
ロック界の重鎮が関わっているというのも興味深い。
作品の中で特に気に入ったのが、影の使い方がうまいところ。
この手の作品でパキッと見えてしまうとテレビドラマ的なチープな感じを受けてしまう。
そして、ストーリーの巧みさで、ぐいぐいと作品の世界観に導かれること。
貧しさ、そして希望という名のラップミュージック。音楽の持つ魅力に引き込まれていく。
この映画は、単なるGスタイルラッパーの話ではない。
貧富の差に悩むアメリカの社会を見つめなおし、そこから出てきた強い光“50セント”を通して
若者に、生きる勇気や、自分の道を探すことを訴えている作品である。
運命に導かれた50セントの生き方から、意志の強さを受け取ってもらいたい作品。
“金持ちになるか?死ぬか?” 人生は常に白黒をつけて生きる博打なのかもしれない。                




Block Party

監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ローリン・ヒル、カニエ・ウェスト、エリカ・バドゥ、フージーズ、デイヴ・シャペル 他
配給:エイベックス・エンタテインメント
2006年11月渋谷アミューズCQNにてロードショー

“HIPHOPの真髄を見よ”
HIPHOPの起源こそ、“ブロック・パーティ”にあったと言われている。
Block 日本流で言うと“町内会”とでも言っておこうか?
そのBlockのパブリックな公園にターンテーブルを2つ置いて同じレコード2枚をかけ、同じフレーズをつないでいく。
それがブレークビーツの始まりだそうだ。
楽器も買えない貧しいスラムで始まったブロック・パーティ。
そんなところから、オリジナルサウンドが生まれ、HIPHOPというカルチャーが始まったということを
友人のNYのドライバー“ドナルド”から聞いたことがある。
ドナルドはBRONXに住む黒人で、昔、童子-TとDJ BASS、そしてGM-KAZとNYにShootingに行ったことを思い出す。
僕たちはハーレムの屋上にターンテーブルを持ち上げ、Shootingを兼ねたパフォーマンスをした。
この時の屋上を貸してくれた奴が、柔道をやっていて黒帯という、ドナルドの友人だった。
ドナルドは“DKNY”の看板を指し、“Donald Knows New York”と言ったことを覚えている。
ブロンクスを歩いているとYellowのドレッドの2人、童子-TとDJ BASSを見て、
物まね野郎的なことを
言われ石を投げられたこともあった。
黒人にとって、NYにとって、ブロック・パーティとは身近なものなのである。
さて、この映画“Block Party”は、2004年9月18日のアメリカンスーパーコメディアン・デイヴ・シャペルが
企画製作した
ブルックリンのブロックパーティの当日及びその準備をフィルミングしたドキュメンタリー映画である。
まず面白いところは、HIPHOPはカルチャーであるという土台の軸がまったくぶれないこと。
遊びの中からサウンドを作る人、押し込められた生活への反発のエネルギーをむき出しにする人、
いろんなHIPHOPの形があるが、ドキュメンタリーならではの本音をデイヴが引き出している。
そして、臨場感、あふれるライブシーン。
客へのダイビングやオーディエンスの熱狂もハンディのカメラでぐいぐい
寄っていく。
望遠のレンズだと対象物にフォーカスがあたっていても周りがぼけてしまう。
接近戦のハンディだからこそ、普通にその場で見ている感じで見えるのだ。

カニエ・ウェスト、モス・デフ、エリカ・バドゥ、フージーズと大物アーチストのLIVEを目の前で感じている気分になれる。
強いメッセージもあるが、コメディアンのデイヴのジョークでかしこまらずリラックスして見れるのもまたGOOD!
HIPHOPの面白さがつまった1本である。




boss’n up

監督:プーク・ブラウン
出演:スヌープ・ドッグ、リル・ジョン、シャレー・アンダーソン、ホーソン・ジェイムズ 他
配給:B.B.B.inc.
2007年2月24日〜シアターN渋谷にてロードショー

“Snoopの世界とブラックカルチャー”
ブラックカルチャーを語る時、ゲットーやピンプ、メイクマネーとHIPHOPでよく耳にする言葉が、
日本にいるとなかなか理解できない時がある。
そこまで極貧生活をしている人も多い訳ではなく(中にはいるのだが、表面的には)
そこからはいあがってスターになった人がいる訳でもなく(実はいてもマスコミに言うと日本ではお涙頂戴の世界になってしまうから)
彼らの世界がよく分からないと思う。

今や、説明も不要なくらい有名になったG-FUNK ギャングスターラップのKING“Snoop Dogg”
彼自身デビュー前はドラックの売人だった。
そして、この映画はSnoopだけでなくLil’ JonやTrinaなどHIPHOPで有名なプロデューサーやアーティストも役者として参加している。

ピンプという言葉は“ピンプ・マイ・ライド”などでブラックカルチャーもので普通に使われているが、
日本語で言うと“ヒモ”であり、“女で金を作る噛ませ犬”であり“クロい男のビジネス”である。
ゲットーの若者は、バスケかラッパーか売人かピンプでメイクマネーする。
この4つの中で、ピンプは特に顔もトークもセンスも必要とされる。
しかも
Snoopは若い頃クリップスのメンバーであった。分かりやすく言うと、“青ギャン”である。
裏社会を知り尽くしたSnoop Doggだからこそ作れた映画である。
まさに、HIPHOP的ゲットーの成り上がりストーリーである。

HIPHOP好きなら、この作品をカルチャーとして楽しむことができると思うが、そうでない人は、
ビデオクリップ的な
ブリブリな画質とHIPHOPミュージカル的な音楽を楽しみながら見て欲しい。
8Mile”的な優等生的部分はまったく無いので、抵抗ある人も多いとは思うが、
ブラックカルチャーとSnoop Doggを感じるにはストレートな作品である。




JUST FOR KICKS

監督:ティボ・ドゥ・ロンジェヴィル
出演:DMC、ラッセル・シモンズ、グランドマスター・カズ、ミッシー・エリオット 他
配給:プレシディオ.
2007年5月19日〜渋谷シネクイントにてレイトショー

“ストリートが歴史を動かす”
映画“JUST FOR KICKS”はスニーカーの映画である。たかが運動靴、されどスニーカーである。
70年代半ば、HIPHOPのオールドスクールJDLことジェリーDルイスや、CAZことDJの重鎮グランドマスターカズ、
さらにはブレイクダンサーの象徴ロックステディクルーのケン・スウィフト達など、
ブロンクスを中心としたB-BOY達が愛用していた頃から物語は始まる。
HIPHOPは、個性を表すカルチャーである。
もちろん彼達もそのカルチャーの代表的存在だけあって、ただスニーカーを履いていた訳ではない。
カラフルな靴ひも、極太のひも、さらにはペイントしてオリジナルアイテムにしていた。
このスニーカーシーンを変えたのは、RUN-DMCである。
有名な曲“MY ADIDAS”刑務所で首を絞めないように靴ひもを外し、ベロ出しスタイルでadidasのスーパースターとジャージ。
あの写真は僕の記憶にもしっかり刻まれている。
メンバーの兄であり、Def Jamのトップである“ラッセル・シモンズ”のアイデアだということだが、
この後スポーツ選手しか契約したことのないドイツのメーカーが、100万ドルで契約することを予想していたのだろうか?
その後、リーボックと50セントが契約したり、adidasと契約したミッシー・エリオットがフェラーリを改造しadidasのシューズカーにしたり、
HIPHOPとスニーカーは切っても切れないものとなる。
さらに、グラフティの世界で、フューチュラがスニーカーとコラボレーションしオリジナルモデルを出したり、
HIPHOPとスニーカーが新しいファッションを作り出すようになった。
30兆円というスニーカー産業も80%はタウンユース、つまり、ファッションとして使用されているのである。
もちろん、アスリートの影響も大きい。マイケル・ジョーダンはNBAが白のスニーカーでなくてはいけない時代に、
赤と黒のエアジョーダンを履いて、罰金を払い続けた。
スパイク・リー映画に欠かせないめがねキャラ“マーズ”とのCMも反骨精神の固まりだ。
ストリートボーラーのカリスマ“ボビー・ガルシア”もスニーカーシーンを作った1人であろう。
そんなストリートのパワーがあふれ、企業を動かした。
彼らのオリジナルスタイルはストリートカルチャーの限りない可能性を感じさせてくれる。
とにかく画面がPOPで可愛い。おしゃれでパワーを感じさせてくれる楽しい作品である。