ファイティング×ガール

監督:チャールズ・S・ダットン
出演:メグ・ライアン、オマー・エップス他
2004年 アメリカ映画

“男の世界、女の世界”
リングの女王と呼ばれ、男社会だったボクシングの世界で女性マネージャーとして活躍した
“ジャッキー・カレン”の物語を描いた“ファイティング×ガール”
メイキングを見ると、ジャッキーには夫や子供がいたり、設定は映画用に少し変えられているようだが
基本的には男社会に女が入っていく、新しい扉を開ける物語である。
メグ・ライアン演じるジャッキー・カレンは、貧しくて教育を受けていない黒人に
ボクサーとしての才能を見出し、仕事を投げ出し、マネージメントをする決意をする。
映画の中の彼女は、自分が注目され、女性として男性と同じ地位に行くことだけを考え、
いつの日か自分の思い通りにそのボクサーを動かそうと考え始める。
アスリートとマネージャーは、常に二人三脚でやっている。
どちらかにエゴが発生すると、チームは崩壊してしまう。
誰もが出世欲を持っている。
しかしその欲望のために仲間を利用していくと、お互いに成功から遠のいていくことをこの映画は教えてくれる。
たとえば、あるアスリートに、世界に通じる道を導いてあげたとする。
そのアスリートは、いつの間にか自分ひとりでやっていると感じ、その恩を忘れ、
いつの日か導いてくれた人間を尊敬することさえも忘れてしまう。
まるで一人で今までやってきたかのように思い込んでしまう。
その逆もあるだろう。
選手が成績を残したことで有名になったエージェントが、まるで自分一人がやってきたかのように思い込むことも…。
その状態になってチームを続けていくと、うまくいかない。
チームは、才能ある人間と才能を生かす人間がお互いに認め合い、優しさと強さと信頼でつながっていくものだ。
この映画の中の“ジャッキー・カレン”は、そのことを悟る。
そして、一人のボクサーを守り抜くのだ。
チームスポーツで選手間や監督、コーチも含めチームになっていく作品はたくさんあるが、
個人スポーツでチームの大切さを伝える作品は少ない。
この作品は、ボクサーという一見孤独なスポーツが、こんなにもチームを必要とするスポーツであることを伝え、
その大切さを教えてくれる。
プロフェッショナルな個人スポーツをしている人達に、是非一度見て欲しい作品である。



モハメド・アリ かけがえのない日々

監督:レオン・ギャスト
出演:モハメド・アリ、ジョージ・フォアマン他
1996年 アメリカ映画

“社会を動かせるアスリート”
ザイールで行なわれた伝説のヘビー級タイトルマッチ“ジョージ・フォアマンvsモハメド・アリ”
この試合を中心に、モハメド・アリを追ったドキュメンタリー映画“モハメド・アリ かけがえのない日々”
この映画は、アリをアスリートとして描いているというより、一人の黒人解放運動のカリスマとして
描いている部分が多い。
ベトナム戦争の兵役を拒否し、逮捕された時も「ベトコンは僕に攻撃したことは無い」と平和主義を貫き
黒人の教育や自由を求める発言を、スポーツ番組のインタビューでも行い、常に社会と闘っていた。
元々、アフリカから“奴隷”としてアメリカに連れて行かれた黒人達が、
世界中に平等を訴える場として世界にアピールできた“世紀のタイトルマッチ”
スピナーズ、ジェームス・ブラウン、B.B.KINGなどのライブもあり、
音楽とスポーツの世界で、黒人パワーを証明することになる。
試合前、アリの敗北を多くの関係者が語っている。
しかし、ザイールの人達の力や精神力で、勝利を手に入れる。
多くの人達の希望や夢を抱えている人間の強さというものをすごく感じさせられた。
スパイク・リーや様々な文化人が、アリのことを語っている。
ボクサーを語っているのではなく、“アリ”という偉人を語っているようだ。
トップアスリートは、本当に多くの人達から、その行動や発言に興味をもたれる。
彼らの発言は、政治家よりも力をもつことがある。
社会貢献、教育、地域に対して、影響力を与えられるからこそ、心も体も鍛えているのだろう。
この映画は単なるボクシングドキュメンタリーではない。
アメリカで黒人が自分達の当たり前の権利を勝ち取るまでの激しい歴史の一片なのだ。



THE BOXER

監督:トーマス・ヤーン
出演:ジョシュア・ダラス、ステイシー・キーチ、ケリー・アダムズ他
2009年 アメリカ映画

“生き方を教えてくれるボクシング映画”
刑務所から出所してきた若者がボクシングを通し、自分の人生を生きていこうと前に進んでいく
ストーリーを描いた作品“THE BOXER”
出所して家にも迎え入れられず、仕事も断られ、やっとのことで見つかった仕事がボクシングジムの清掃員。
病気のトレーナーが細々とやっているジムだったが、唯一彼が存在できる場所だった。
若者は母に暴力を振るう継父がにくくて殴り、大怪我をさせ、服役することになるのだが
出所の時、自分のやったことを反省し、もう二度と人を殴らないと決意する。
しかしトレーナーはボクシングを勧める。
「ボクシングはスポーツである」「戦わずに勝ち取れるものは無い。人生も同じだ」
彼はボクシングを通して、人生を強く生きることを伝えたかったのだ。
あきらめないこと、気持ちを強くすること。
ボクシングを教えているのに、言葉の一つ一つが人生の教訓みたいに感じられる。
トレーナー自身が、リング上での事故で相手を殺したことがあったからこそ、
言葉の一つ一つが重いボディブローのようにじわじわと効いてくる。
スポーツ映画を通して、心が強くなり、豊かになれる作品が、僕の中で正しいスポーツ映画だと思っているが
この作品はまさにそのような作品である。
誰でも自分にとっての壁があるが、その壁は越えない限り、ずっと壁として残っている。
もしその壁を乗り越えることが出来たなら、後ろを振り向いたとき、
その壁は無くなっていることだろう。
自分の人生は自分で勝ち取っていく強さを与えてくれる“THE BOXER”
自分が主人公になった気分で見ると、トレーナーの言葉が自分に向けて言われているように思え
熱いものを感じることが出来るはず。
前に進みたいのに、勇気がちょっと足りない人にオススメの1本です。



ALI

監督:マイケル・マン
出演:ウィル・スミス、ジェイミー・フォックス、ジェフリー・ライト、ジョン・ヴォイト 他
2001年 アメリカ映画

“アリ ボンバイエ”
ボクシングファンでなくても名前だけは知っている元世界ヘビー級チャンピオン“モハメド・アリ”の
1度目の世界チャンピオンになる前から、タイトルを奪われ、2度目の王座を取り戻すまでの
人生を描いた作品“ALI アリ”
通算成績 61戦56勝37KO 5敗という、ものすごい成績を残しているモハメド・アリ。
日本ではアントニオ猪木との異種格闘技戦をしたことでも有名である。
1964年から74年までの10年間を描いているのだが、単なるボクサーとしてだけでなく
黒人解放の1つのシンボルとしてアメリカと戦っている様子や、苦悩の人生を表現している。
マルコムXと出会い、ブラックムスリムに入り、黒人解放を訴えるようになるが、
過激な発言が多く、FBIの警備付で試合をやったり、ベトナム戦争の徴兵を断り試合が出来なくなって
裁判が続くなど、チャンピオンなのに、順風満帆にボクサー人生を送れていないアリ。
さらに、友人にチャンピオンベルトを売られたり、利用しようとする周りの人間に振り回されたりと
人間関係もうまくはいっていない。
徴兵も「自分がベトナムと戦う理由が見えない」という理由だし、
何故黒人がバスの座る場所を分けられるのか?という差別に対して、
ただ真実を求め、自分の考えをはっきりさせる為に戦っていただけの男アリ。
彼が3度もタイトルを奪取できたのは、人間の大きさ、苦労の多さ、自分という人間を信じ抜く強さが
あったからだと痛感させられる。
マイクパフォーマンスやマスコミに対しての毒舌、相手への挑発などの部分がやたらと取り上げられ、
そのイメージも強いのだが、彼の人生観を知って、過去の試合や当時のドキュメントフィルムを見ると
見方も変わるだろう。
アリ役のウィル・スミスも初めの10分くらいはウィル・スミスに見えていたが、試合のフットワークとかを見ていると
だんだん“モハメド・アリ”に見えてきて、作品にのめりこんでいけた。
アリのマイクパフォーマンス、特に「蝶のように舞い、蜂のように刺す」とか、相手を挑発する喋りは
今考えるとラップ的だから、元ラッパーのウィル・スミスのタッチが受け入れやすかったのかもしれない。
アフリカザイールでの伝説の試合のドキュメントを見たことがあるが、本人のフィルムを見ても
違和感を感じさせないことは凄いことだと思う。
“ハングリー精神”とは、ただ個人が勝ちたいという気持ちでなく、多くの人の夢や希望を背負い、
自分を追い込んでいくことだということを教えてくれる作品です。
熱い気持ちを失っている人に見てもらいたい1本です。



ガールファイト

監督:カリン・クサマ
出演:ミシェル・ロドリゲス、ジェイミー・ティレリ、ポール・カルデロン 他
2000年 アメリカ映画

“何の為に闘うのか?”
サンダンス映画祭を始め、世界の数々の映画祭を受賞した作品。
当時予告を見て見に行かなきゃと思いながら、公開期間がそんなに長くなかったので
見逃してしまった作品だった。
父親の暴力のせいで、母親が自殺してしまった姉弟。
弟は優しく物静かで人に合わせるタイプの男の子だが、スラムで生きる為にと父親はボクシングを習わせる。
姉は自己主張が強く、自分は自分で守るというポリシーの中、喧嘩に明け暮れる毎日。
そんな姉がボクシングジムに弟を迎えに行った時、1人のトレーナーと出会う。
貧しい国でプロボクサーであったが、あと一歩のところで負け、NYにやってきたトレーナーは
女性がボクシングをすることに反対するが、彼女の情熱に負け、トレーナーを引き受けるのだった。
不良少女は生きがいを見つけ、トレーニングを真剣に始め、学校でも喧嘩をしなくなり
自分の道を見つけていく。
このジムに貼られた様々なメッセージ“チャンピオンは1日にしてならず”“自分に勝て”
“自分がさぼっている時他人はやっている”など、
人間として強くなっていくメッセージのボードが時々インサートされる。
彼女はボクシングを通して、腕力だけでなく「人間として」強くなっていくのだ。
常に上目使いで人をにらんでいた少女が、トレーナーや愛する人に対して優しい目になっていく様子は
見ていてとても温かな気持ちにさせられる。
そして、アマチュアの決勝戦の相手が…。
この展開は考えていなかったが、人としてボクサーとして、本当の強さを求められる試合となった。
自分を高め、最大限にお互い闘うこと。そして闘った者が共有できる気持ち。
“スポーツは人を育てる”という人がいるが、まさに、それを表した作品。
劇場で見たかったと後悔させられる1本でした。



ロッキー・ザ・ファイナル


監督・脚本・主演:シルベスター・スタローン 
出演:バート・ヤング、アントニオ・ターヴァー、ジェラルデン・ヒューズ、マイロ・ヴンティミリア、トニー・バートン他
配給:20世紀フォックス映画
2007年4月20日〜TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー

“闘う理由と闘う気持ち”
ボクシングの世界的名作シリーズと言えば、シルベスター・スタローンの“ロッキー”であろう。
現在まで5作出ているが、この6作目でファイナルである。

ロッキーと言えば、全体の8割でロッキーやその周辺の人々の気持ちへ共感を覚えさせ、
残りの2割の時間でリアリティのあるボクシングの試合を見せ、アドレナリンを上げ、エンディングにつながるという作風。
今回も、そのロッキー的王道パターンの作品。

今回一番気になったのは、ロッキーの闘う理由。
チャンピオンを経験し、貧乏からも抜け出し、店も持ったロッキー。
息子も大きな会社に入り、何故、今さら闘わなくてはならないのだろうか。その部分に注目して見ていた。
結論は“ボクサー”であるからということだと思った。
話し下手で、拳を合わせることで相手を知る男、闘う気持ちが自分のアイデンティティであること、
そんな男こそ、ボクサーなのであろう。
ロッキーの“ボクサー”としての人生がすべてのくじけそうな周りの人々に立ち向かう勇気を与えてくれ、
スクリーンの向こうの人々にも強い気持ちを送ってくれるのだろう。
自分をあきらめない。そんな映画のテーマがストレートに伝わってくる。

この映画は一貫してストレートな台詞でメッセージのパンチを打ってくる。
「人生ほど重いパンチは無い」「大切なのはどんなに強く打ちのめされてもこらえて前に進み続けることだ」
「好きなことに挑戦しないで後悔するより醜態をさらしても挑戦するほうがいい」
ロッキーが出してくる台詞のジャブがどんどんボディブローのように効いてきて、
最後の試合のシーンでは思わず“倒れるな”と手を握ってしまう僕がいることに気づく。
これがアメリカンヒーローの作り方なんだと感心してしまう。
これはボクシングだけの話ではない。
誰もが闘う理由も闘う気持ちも持っている。
それをストレートの思い出させてくれるのが“ロッキー”だ。